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ZIPAIRとエムティーアイの挑戦 ー "IN FLIGHT モード"が切り拓く安全で快適な空の旅

飛行機に乗ったとき、窓の外に広がる雲海を眺めるのが好きな人は多いのではないでしょうか。しかし、パイロットにとってその雲は、安全な運航を脅かす存在かもしれません。

こんにちは、ZIPAIR note編集部です。

旅客機の運航において、パイロットが最も警戒するものの一つが雷です。
雷に遭遇すると、機体はダメージを受けることもあり、最悪の場合は運航に支障をきたします。しかし、従来のコックピットでは最新の気象情報をリアルタイムに得ることが難しく、パイロットは限られた情報と経験を頼りに、雷雲を避けるルートを選ばねばなりませんでした。

そんな状況を変えるべく、ZIPAIRとエムティーアイ、JAXAが協働し、エムティーアイが開発したのが航空気象サービス「3DARVI」(※1)に新たに搭載された「IN FLIGHT(インフライト)モード」です。この革新的な機能により、パイロットはタブレット一つで、リアルタイムに3Dの気象情報を確認できるようになります。

しかし、この画期的な機能の開発には、いくつもの課題がありました。
その解決のため、3社がどのように知恵を絞ったのでしょうか。

本記事では、開発の中心メンバーであるZIPAIRの大槻さんと浦さん、エムティーアイの矢内原さんと富澤さんへのインタビューを通して、開発の舞台裏に迫ります。

彼らの生の声から、この画期的な技術が航空業界にもたらす変革の予感を感じ取ってください。

後列左から浦さん、大槻さん。前列左から富澤さん、矢内原さん。

革新的な「IN FLIGHT モード」開発の舞台裏

ー 今回の「IN FLIGHT モード」開発の経緯と背景について教えてください。

大槻:我々LCCにとって重要なのは、いかに機材(飛行機)を効率的に稼働させるかということです。もし何か問題が起これば、運航できなくなってしまい、お客様にもご迷惑をおかけしてしまう。それをいかに避けるかが、ZIPAIRの課題でした。

浦:そのために、気象状況の把握は特に重要な要素でした。実は日本国内では年間数百件もの被雷被害が発生しており、その対策は私たちにとって喫緊の課題だったんです。2年ほど前には、雷が原因でAOG(Aircraft On Ground:航空機が故障で飛べない状態)になってしまったこともあり、それがこの開発のきっかけの一つにもなっています。


ー 雷の予測は難しいのでしょうか?

大槻:飛行機は基本的に金属でできているので、大きな静電気を帯びやすい。冬場に静電気が発生するのと同じですね。この静電気を帯びたままの状態で帯電した雲に近づくと「誘発雷」と呼ばれる雷に遭遇し、ライトニングヒットと呼ばれる落雷が起こります。一般的な雷雲は地上のレーダーで探知できますが、誘発雷の予測は非常に難しい。これが大きな課題でした。

浦:私と大槻は、もともと気象に強い関心があり、航空機運航における気象情報の重要性を常々感じていました。しかし、コックピット内ではリアルタイムの気象情報を確認することが技術的に難しい。それが私たちにとって大きなジレンマだったんです。


ー それが今回のプロジェクトに繋がったんですね。

大槻:以前から、JAXAやエムティーアイさんとのつながりがあり、エムティーアイさんが他の航空会社と共同で地上運航従事者向けに「誘発雷」を予測する技術を開発しているということも知っていました。「これはZIPAIRでも活用したい!」と思い、エムティーアイさんに連絡したんです。

浦:これまでも、多くのパイロットや関係者が機上でのリアルタイムな気象情報の必要性を感じていました。しかし、技術的なハードルが高く、なかなか実現できずにいた。そんな中、真正面から挑戦できたのは、チャレンジ精神に溢れるZIPAIRだからこそだと思います。

「IN FLIGHT モード」が実現する革新

ー 「IN FLIGHT モード」を実現するために、どのような技術的工夫がなされたのでしょうか?

矢内原:私たちは、エムティーアイが提供する航空気象サービス「3DARVI」(※1)にJAXAが開発した「GSMaP」(※2)を組み込み、この「IN FLIGHT モード」という新機能を開発しました。特に力を入れたのは、大容量の気象データを大幅に軽量化することです。

ZIPAIRさんからお話をいただいた後、私たちはデータ構造を見直し、より軽量で処理しやすい形式に変更する作業に取り組みました。また、タブレット側の処理速度を上げるため、あらかじめデータを小分けにするなどの下ごしらえを事前に行ってからタブレットに流し込むという工夫も施しました。こうした努力の結果、通信環境が限られるコックピット内でもスムーズなデータのやり取りを実現することができたのです。

その成果として、パイロットの方々は、飛行中に手元のタブレットで、リアルタイムの気象情報を3D表示で直感的に把握できるようになります。ひと目で被雷リスクの高いエリアの高度帯などを確認できるようになるため、素早い状況判断が可能となります。


ー この気象情報は、地上のスタッフも同じように見ることができるのでしょうか?

大槻:見ることは可能ですが、ZIPAIR としては、地上での使用は想定していません。とにかく上空で、パ イロットがいかに効率よく飛行できるか。そこに焦点を当てています。


ー まさに "インフライト" に特化した機能なんですね。

浦:さらに画期的なのは、JAXA の「GSMaP」を航空機内で初めて活用することです。これは人工衛星から得られた世界中の雨雲情報を、上空でもリアルタイムに確認できるようにするものです。従来、洋上など地上レーダーの届かない空域では、雨雲の状況把握が難しいことがありました。しかし「GSMaP」を活用することで、そうしたエリアでも運航中に最新の気象状況を把握することができるようになります。パイロ ットの皆さんは、より最適な運航ルートを選択し、特に雷の回避などに役立てることができるでしょう。


ー 「IN FLIGHT モード」の導入によってどのようなことが可能になるのでしょうか?

大槻:これまで想像に頼っていた気象状況が可視化されることで、雲の位置の変化をリアルタイムに把握できるようになります。これは ZIPAIR のような長距離国際線を運航する上で、大きなメリットになります

特に降下前の気象情報の把握は重要です。出発前には雷雨域が発生していなくても、飛行中に発生することがある。「IN FLIGHT モード」によって、そうした変化をリアルタイムに機上で把握できるようになるのは、 この機能の大きな特徴の一つだと考えています。

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※1 「3DARVI(スリーディー・アーヴィ)」は、リアルタイムな気象現象と飛行ルートをひと目で確認で き、気象現象を 3D で可視化することで、航空機の安全運航をサポートするシステムで、エムティーアイが 提供しています。

※2 「GSMaP」は、JAXA が複数の衛星データを組み合わせて作成する、高精度な全球降水マップです。 降水監視や洪水予測など、様々な分野で活用されています。

革新を実現した強固なパートナーシップ

ー 今回のプロジェクトにおいて、エムティーアイさんはどのような役割を担ったのでしょうか?

矢内原::エムティーアイは、豊富な実績とノウハウを生かし、『music.jp』『ルナルナ』など、ICT を活用し 毎日の暮らしを豊かにそして便利にするサービスを開発・提供しています。なかでも「3D 雨雲ウォッチ」 など気象に関するサービスは、25 年以上にわたり提供してきた実績があります。気象のデータは処理が難しいデータも多いのですが、今回のプロジェクトでは我々が培ってきたノウハウ(大量で複雑なデータを効 率的に処理する技術)を活かし、気象データの軽量化という課題に取り組みました。


ー 具体的にはどのような貢献があったのでしょうか。

矢内原:気象データは非常に大容量になるので、それを軽量化し、スムーズに処理するノウハウは「IN FLIGHT モード」の開発に不可欠でした。ただ、課題もありました。最初のテストでは、目標としていたデ ータ圧縮率に到達できていなかったんです。このままでは上空での使用は難しい状態でした。


ー それを乗り越えるために、どのような努力をされたのですか?

矢内原:ZIPAIR さんから「パイロットの視点に立つことが重要だ」とご指摘いただいたことが、突破口となりました。私たちは地上の視点になりがちでしたが、その意見に耳を傾け、「本当にパイロットが必要な情報のみを提供する」を軸に修正を重ねることで、次第に上空の視点で開発できるようになっていったんです。

大槻:機上では、過去の情報は必要ありません。パイロットが本当に必要としているのは、今この瞬間の、 リアルタイムの情報なんです。それをエムティーアイさんには粘り強く伝え続けましたね。

矢内原:実は私は前職(航空関係)の経験がありましたが、開発エンジニア含めチームの多くのメンバーは 航空業界に精通していませんでした。そこで、飛行の各フェーズでどのような情報が必要とされるかというリアルな利用シーンを図に書いて説明したり、チーム内で繰り返し議論することで、理解を促しました。

富澤:私もそうしたメンバーの一人でした。最初は漠然と「飛行中に使うシステム」という理解でしたが、 利用シーンを社内でしっかり共有し、勉強することで、プロジェクトに臨むことができました。


ー 数々の課題を乗り越えたことは大きな自信になったのでは?

矢内原:開発の途中に 2 度のテストがあり、特に 1 度目は大きな壁でした。失敗すればプロジェクトが頓挫してしまう。期限もある中で結果を出さなければならず、本当にドキドキしましたね。

しかし、ZIPAIR さんとの相互理解とチーム一丸となった取り組みにより、無事にテストを乗り越えられました。この経験はチーム全員にとって大きな自信になりました。

安全な空の実現に向けて

ー 今後の展望について教えてください。

大槻:現段階でも、多くのパイロットから「これを使いたい」という声をいただいています。実際に運航で使用できるようになるのが楽しみですね。

浦 :ZIPAIR はお客様に安全な空の旅を提供することを使命としています。その実現のために、今後も「IN FLIGHT モード」の発展に挑戦し続けます。例えば「誘発雷」以外にも、エンジン停止の恐れがある「火山灰」や、晴れた空で機体を揺らす「晴天乱気流」、さらには「高濃度氷晶」など、まだ機上でリアルタイムに把握しきれていない気象現象があります。これらの課題解決に向け、JAXA やエムティーアイさんとの連携を深めていきたいと考えています。

矢内原:エムティーアイとしては、この技術を世界中のエアラインに活用していただきたいです。もちろんグローバルな展開には、さらなる大容量のデータ処理が課題となります。弊社には大量データを効率的に扱うノウハウがありますので、その強みを存分に発揮していきたいと考えています。そして私たちは、世界中の航空会社にとって、安心安全のパートナーであり続けたいと思っています。

大槻:「IN FLIGHT モード」の開発は、安全性向上への挑戦の第一歩に過ぎません。挑戦は、まだ始まった ばかりです。私たちの目的は ZIPAIRの安全運航だけではありません。日本の、そして世界の航空業界全体の安全性向上に貢献し、世界中の空を、より安全で快適な空間へと変えていくことです。その未来に向けてこれからも挑戦を続けていきます。

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「IN FLIGHT モード」は、ZIPAIR とエムティーアイ、JAXA という異なる分野の専門家たちの強固なパ ートナーシップから生まれた、航空業界の安全性向上に向けた革新的な一歩です。パイロットの視点に立ち、 現場のニーズを深く理解することで生み出されたこの画期的なシステムが、より安全で快適な空の旅の実現 へと私たちを導いてくれるでしょう。

ZIPAIR の挑戦は、異なる専門性を持つ者同士が協力し合い、現場の声に耳を傾ければ、どんな困難な課題でも乗り越えられることを教えてくれます。彼らの物語が、私たち一人一人の心に、前へ進む勇気と希望を与えてくれることを信じています。

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